夫に突然家を出て行かれ、生活費を入れてもらえず困っているという５０代の女性の依頼で、婚姻費用を請求する調停を起こしました。家を出て行った夫は、年収２０００万円の医者でした。
  
　社会的な地位がある男性であっても、分別なく、自分の妻に罵詈雑言を浴びせて恥じない人はいます。この女性の夫が、まさにそういうタイプで、モラルハラスメントの加害者の典型のような人でした。
　女性がやることなすこと、全てにケチをつけ、別居した後も、何か気に入らないことがあると、すぐさま、女性を誹謗する大量のメールを送り付けてきました。 
「どこまでバカだ。この大バカモノ！！！君にはとことん呆れている」
「寝ぼけてんじゃね。このバカが」・・・
  女性がすぐに返事をしないと、夫は、また激怒して、大量の非難メールを送り付けていました。いわく「僕の言うことに無視は許されない」「可及的速やかに返事するのは君の責務だ」・・・。
  あまりに身勝手で、妻に対する尊重の念のかけらもない、ヒドい言葉が書き連ねられた大量のメールの数々を見せられ、当職も言葉を失いました。
婚姻費用の負担を求める家事調停は３回ほど期日が開かれましたが、夫は、結局、仕事を口実に一度も出頭しませんでした。 
　しかし最後は、平成２５年１月に施行された家事手続法によって認められた電話会議に応じて、月額３０万円と比較的高額な婚姻費用の支払いを内容とする調停が成立しました。
 
　夫は、女性に、スズメの涙ほどの財産分与案を提示して離婚を求めていましたが、「働くな」という夫の命令に従い３０年も専業主婦を続けてきた女性に、今さらまともな収入を得るあてはありません。
女性は、わずかな財産分与しか認めないという夫の離婚提案を、当然拒否しました。 
　このケースは離婚事由がなく、夫が裁判を起こしたとしても、当分は離婚が認められそうにない事案でした。女性は、当面、婚姻費用をもらいながら、冷静に人生設計を考えていく余裕を獲得したことになりました。